歌詞にみるオリジナリティの境界線〜トレイシー・ウルマン「Breakaway」からジッタリンジン「知らない街へ」〜

以前、CDジャケットを元に「オリジナリティ」について考えた記事を書いた。
今回のテーマは歌詞。主に取り上げるのは次の3曲。

Tracey Ullman(トレイシー・ウルマン)の「Breakaway」
そのカバーで翻案した邦訳をつけているスクーターズの「涙のブレイクアウェイ」
カバーではないけど歌詞が似ているジッタリンジンの「知らない街へ」

(「Breakaway」の原曲はIrma Thomas(アーマ・トーマス)だけど、トレイシーウルマンの方が有名で自分もカバーで知ったので、こちらをタイトルにした。)

この3曲を元にオリジナリティについて考えてみる、というのがざっくりとした主旨。
前回同様、一リスナーがふと思った感想に近い。

言ってしまうと「Breakaway」や「知らない街へ」が好きで、曲を紹介したいだけだったりするので、内容は読み飛ばして曲だけ聴いてもらって全然構わない。

「Breakaway」は知ってるだけでも、9組のアーティストにカバーされている名曲(しかもその内5組は日本)。
いくつか動画も載せてるので聴いたことがない方はぜひ聴いてみて欲しい。

憶測だけど、「セーラー服を脱がさないで」や大滝詠一×市川実和子の「POP STAR」もこの曲にインスパイアされているんじゃないかと思っている。

アーマ・トーマス「Breakaway」とカバーしてるアーティスト

オリジナルはアメリカのR&B歌手、アーマ・トーマスが1964年に発表したもの。
作詞はジャッキー・デシャノン、作曲はシャロン・シーリー。

カバーしてるアーティストは以下の表の通り。

Irma Thomas 原曲。「Wish Someone Would Care」のB面としてリリース(1964年)
Beryl Marsden 「Music Talk」のB面としてリリース(1965年)
Tracey Ullman 「You Broke My Heart in 17 Places」収録(1983年)
イギリス出身の女優、タレントでテレビドラマ「アリーマイラブ」に出演。
Major Accident 「PNEUMATIC PNEUROSIS」収録(1983年)
イギリスのパンクバンド
Jackie DeShannon 作詞したジャッキー・デシャノンによるセルフカバー。発表年は未確認
スクーターズ 「コンプリート・コレクション」収録(2003年)
80年代に活動した日本のガールポップグループ。
SNAIL RAMP 「FLATFISH COMES!」収録(1997年)
「mind your step」(1997)がスマッシュヒットした日本のパンクバンド
ザ・ミルキィズ 「LOVER SOUL」収録(2007年)
スクーターズの「涙のブレイクアウェイ」のカバー。日本のガールズポップバンド。
Akiko 「HIT PARADE-LONDON NITEトリビュート-」収録(2009年)
日本のジャズ・ボーカリスト
The OLDTONES オムニバスアルバム「DRIVING SKA! / V.A」収録(2009年)
日本のスカバンド

おそらく最も有名なのはTracey Ullman(トレイシー・ウルマン)のカバー。

大貫憲章が主催している「ロンドンナイト」というロックDJイベントでの人気曲を集めた「LONDON NITE 01」というオムニバスアルバムがあり、Traceyの「Breakaway」はこのアルバムの最後に収録されている。

大貫憲章はイベントでも毎回最後はこの曲でしめるというほどお気に入りらしい(ちなみにロンナイは1980年〜)。
個人的にもカバーの中ではトレイシーウルマンのものが一番好きで、初めて知ってから15年近く経った今でもコンスタントに聴き続けている。

カバーは9組とも聴いていて、必聴と言えるほどオススメなのは、トレイシーウルマンとスクーターズの2曲。
作詞のJackie DeShannon(ジャッキー・デシャノン)のカバーも良いけど、トレイシーを聴き慣れてるせいか若干癖があるような印象を受ける。
もっとも原曲に忠実なのはBeryl Marsden(どの辺が忠実かは後述)。

所持してるCDで言うと、トレイシーウルマン、スクーターズとakiko。

akikoはジャズヴォーカリストなので、ロンナイの選曲を歌うには気品がありすぎるというか、少なくとも真骨頂ではないと感じる。
同じカバーアルバムでもジャズの楽曲を集めた「Little Miss Jazz And Jive」は文句なしに最高なので、聴くならこちらがお勧め。

トレイシーウルマンは本業はタレントなので特に芯のあるアーティストでもなく、CDジャケットやPVに関しては時代性のギャップを差し引いてもイマイチ。

でも、この曲はどんなマジックが働いてるのか原曲すら超えていて、80年代を代表するガールズポップに挙げられると思う。

トレイシー・ウルマン(アーマ・トーマス)の「breakaway」の歌詞

本題の歌詞について。
さっき挙げた動画の「Breakaway」を初めて視聴した人はどんな歌詞だと想像するだろう?

たぶん、テンションが高くて歌詞も明るく楽しいもの、という印象を受けると思う。
でも、実は歌詞の内容は曲調とは真逆。

「Breakaway」は「別れる」という意味で、女性が別れを願う歌。
しかも、歌詞では否定形になっていて「I can’t breakaway, though you make me cry(あなたに泣かされても、私には別れられない)」というもの。

全体の歌詞を見るとより、苦しくて切羽詰まった心境を歌ったものだとわかる。

I’ve made my reservation,
I’m leaving town tomorrow,
I’ll find somebody new and
there’ll be no more sorrow

Thats what I do each time, but I can’t follow through

I can’t breakaway, though you make me cry
I can’t breakaway, I can’t say goodbye
No I’ll never, never breakaway from you

No, No, no no no, No, No, no no no, No, No, no no no, No, No!

ざっくり意訳すると、
「もうこの街を出て新しい恋人を作ると決めた。
なんどもそう思ったけど、私にはできないの。
私にはできっこない。あなたから離れられないの。」

何度も連呼する、「別れたい」という想いを自分で否定する「NO!NO!(別れられない!)」という言葉からはかなり悲痛な想いが伝わってくる。

オリジナルのアーマ・トーマスの歌を聴いてみると、こちらはきちんと歌詞にあわせた歌い方をしている。
テンポは速いものの歌声からは「強い決意・悲哀」や「ジレンマの狭間で揺れている」といった心情が読み取れる。

トレイシー・ウルマンは歌詞などお構いなしに、深刻さのかけらもない振り付けで、ひたすら軽快に歌っている。
その辺が作品としては疑問だけど、奇しくもその点が原曲を越えられた理由のようにも思う。

見方を変えると、この曲調であれば本来は歌詞ももっと明るいものであった方がよかったのではないかと思う。

オリジナルはその点で曲調と歌詞(歌い方)にギャップが生まれ、歌詞の内容を無視したトレイシーの方が正解だったと言えるかもしれない。

実際、有名なのはトレイシーの方で、以降のカバー曲もトレイシー同様明るい印象のものが多く、オリジナルではなく、トレイシー版に触発されてカバーを作ったのではないかと想像する。

その証拠というわけではないけど、トレイシー以前のBeryl Marsdenのカバーを聴くと、やはりアーマ・トーマス寄りで楽しい感じではない。
原曲に忠実でどこか重々しい雰囲気が漂っている。

ともあれ、ここで確認したいのは「彼氏と別れたいけど別れられない」という歌詞の内容。
続けて他の2曲の歌詞もみていきたい。

スクーターズの「涙のブレイクアウェイ」の歌詞

スクーターズは1982年にデビュー後、2年の活動のみで解散したガールズポップグループ。
代表曲「東京ディスコナイト」は「Breakaway」に並ぶ名曲で、上で紹介したオムニバスシリーズの「LONDON NITE2」に収録されている。

オリジナルアルバムにも当然収録されていて、収録アルバム『スクーターズ/コンプリート・コレクション』(2003年)は「驚異のロング・セールスを記録中(アマゾン商品の説明より)」とのこと。
自分もAmazonでこのアルバムを購入した。

曲や本人たちのイメージを一言でいうと「都会で颯爽と生きる女」
2012年に復活してリリースしたアルバムのタイトルも「女は何度でも勝負する」。
恋に臆せず男にひるまない。そんな強気な女性のイメージが強い。

カバーした「涙のブレイクアウェイ」の作詞はメンバーの信藤三雄によるもの。

これでこの街 これっきりだわ
誰も知らせず 夜汽車に乗る
彼の姿 見たくない

だから Break away
I can say good-by

速くすぐ Midnight train go
NO,No,No…

明日知らない街を通り
朝日の中で目が覚めたら
涙なんか流さない

だからBreak away
You,ve made me cry

だからBreak away
I can say good-by

速くすぐ Midnight train go
NO,No,No…

いつの日か 帰る時
ドレス 似合う 女

彼の横 すり抜けて
冷たい目で
So ウインク No,No.

これでこの街 これっきりよ

この街と彼にお別れしたい、というテーマはオリジナルと同じ。

でも、オリジナルが『彼と別れたくても別れられない(I can’t breakaway)』と歌ってるのに対して、スクーターズは真逆。
『お別れする(I can say good-by)』という意思を強く出し、夜汽車で街をでる直前のシーンを歌ってる。

お別れするだけでなく、
『いつか帰ってきたとき、ドレスの似合う女になって、彼の横を冷たい目でウインクしながらすり抜ける』
という挑発的な言葉まで投げかけている。

この辺が、すごくスクーターズらしい。
男に冷たくされてそれでも別れられない…、なんて歌うのはスクーターズらしくない。

だからこそ、あえてカバーする際に歌詞をスクーターズに合わせて作り変えたのだろう。
カバーであっても、この歌詞は「スクーターズだから歌える、スクーターズだから活きる」オリジナルなものになっている。

ジッタリンジンの「知らない街へ」の歌詞

スクーターズはカバーだが、この曲はカバーではなく全く無関係。
ただ、歌詞は「涙のブレイクアウェイ」にインスパイアされたとしか思えないほど近い。

メロディは近くはないけど、短くアップテンポな曲調はやはり「涙の〜」の影響のように思う。
(さすがに偶然だろうけど、時間はどちらも2:39で全く同じ)

作詞は他のジッタの曲と同じでギターの破矢ジンタ。
「知らない街へ」はアルバム「tentastic!」に収録。

あてもなく飛び乗った
夜汽車の窓の外
あふれ出す原色の光の帯の中
あの日もあなたの事を思って
曇ったガラスを見つめていたけど

Bye Bye Bye Darlin’ サヨナラね
今度はきっと戻らない
Choo Choo Choo Train 連れてって
彼の知らない街まで

書置きは本当よ
たぶん今も大好きよ
でもちょっとこの街と
あなたに疲れたの

あの日のあなたの事を思って
曇ったカガミに笑ってきたけど
Bye Bye Bye Darlin’ サヨナラね
今度はきっと戻らない
Choo Choo Choo Train 連れてって
彼の知らない街まで

「彼とお別れする」「街をでる」というテーマはオリジナルと同じ。
「夜汽車で出発する直前」というストーリー性はスクーターズと一緒。

もちろん、実際の作曲の背景は知らないし、実際どんな背景があるにしろここで言いたいのは「アイディアを拝借してる」ということではない。

仮に「涙の〜」に着想を得て近い歌詞になったとしても、やはりスクーターズ同様ジッタリンジンらしさに満ちた、オリジナリティの強い歌詞だと思う。

その理由の一つには、ジッタの歌詞には「人の心情」を「街」に投影するという特徴があることが挙げられる。

別記事で、昔春川玲子が自身のブログ「HY-SPY」で「ジッタリンジン好きは松本大洋も好きだから読んでみて」と言っていた、ということを書いた。

【JITTERIN’ JINN入門】ジッタリン・ジンの歴史とオススメの曲を紹介

具体的に何を理由にそう言っていたのかはわからない。
でも、双方のコアなファンである自分はその理由の一つに、この「人の心情を街に投影する」という共通点があるんじゃないかと考えている。

松本大洋の作風も「人」と「街」をリンクさせて描くという特徴がある。
もっとも顕著なのは「鉄コン筋クリート」。

抽象的な物言いになるが、主人公のクロとシロは「宝町」に染まり、蝕まれていくが、最終的に「宝町」を出てハッピーエンドを迎える。
(原作自体も寓意的で抽象的ではある)

ジッタリンジンの歌詞も、登場人物の心情を投影する舞台装置として「街」が度々登場する。

例えば、「GOOD LUCK」。

夜汽車に乗って君の街まで
片道切符飛び出してきた

GOOD LUCK 街の灯遠く離れていく
今なら戻れるけど
GOOD LUCK 街の灯遠く離れていく
幸せになって戻ってくるよ

「一番鶏」

この町もカワイイコが増えて
まっすぐ歩きづらくなった
バイバイバイバイ カラフルタウン カラフルタウン

一番鶏が鳴いたらここから船にのって
新しい暮らしを始めよう知らない所で

「いつかどこかで」

Baby お別れだ 俺はこの街をでる
お前のことを捨てて だけど だけど
きっといつかどこかで会えるさ
きっといつかどこかで会えるさ

ポジティブにもネガティブにも、「街」から出ることで心情の変化を表している。
オリジナルやスクーターズが行動(「breakaway」)や感情(「涙の〜」)をタイトルにつけてるのに対し、ジッタは「知らない街へ」とやはり「街」をフューチャーしている。

だから、「涙のブレイクアウェイ」に似てるなと思ったの同時に、それ以上に「すごくジッタらしい歌詞」だとも思えたのである。

次のくだりも本当に上手い。

「今度はきっと戻らない
Choo Choo Choo Train 連れてって」

「今度は」ということは、一度は戻ってきてしまっているということ。
「Choo Choo Choo Train 連れてって」と電車を擬人化しているのも、「自分の意思の力だけでは決別できない」という女性の心情を鮮やかに表している。

そこだけ見ても「夜汽車」はとってつけたような浅い表現ではない。
歌詞の世界観の中で効果的で必然性のある役割を果たしている、オリジナリティを持った歌詞だと言える。

さいごに

歌詞を元に「オリジナリティ」について考えてみた。
ある意味解説はおまけと言いつつ、結構説明も長くなってしまった。

もう一度簡単にまとめると、
カバー曲だとしても、どこからかアイディアを借りてきたとしても、歌詞の内容とアーティストに違和感がないかー「らしさ」があるか?、もっと言うと、根本的にそのアーティストに「らしさ」が備わっているか?
それがオリジナルかどうかを分ける一つの境界線になる、と言えるかと思う。

最後に、冒頭で書いた「セーラー服を脱がさないで」と「POP STAR」について補足。

「セーラー服を脱がさないで」はイントロがかなり「breakaway」っぽくて、ネットで他にも指摘している人を見かけたことがある。

歌詞はもちろん別物。
実は今回記事を書くにあたって初めて最後まで通して曲を聴いたんだけど、今更ながら歌詞の露骨さに衝撃を受けた。

秋元康もロバートジョンソンとは別の十字路で魂を売ったんじゃないか(ちゃんと寿命をまっとうしそうだけど)とすら思った。

「POP STAR」は大滝詠一作曲で女優の市川実和子が歌ったもの。
ポンキッキーズの挿入歌だったらしい。

この曲が似てるというのは本当に「なんとなく同系統の曲」くらいの意味。
ただ単に好きなのでついでに名前を挙げてみた。

オリジナティに関して付け足すと、大滝詠一ほど確固たるオリジナティのある人もいないだろう。
別の女性ボーカルが歌ってても、この曲からは強烈に「大滝詠一」の存在を感じることができる。

「POP STAR」含め、今回紹介した曲は良い曲が多いのでオススメ。
特にジッタリンジンの「知らない街へ」は聴いてほしいんだけど、収録アルバム「tentastic!」はなかなか入手しにくいかもしれない。

でも探せば手に入らないことはないので、気になる方はぜひ。

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