
アメリカを代表するロックバンド、Grateful Deadの歴史を辿ったドキュメンタリー映画「グレイトフル・デッドの長く奇妙な旅」を観たので紹介します。
「マーケティングの秘訣」という大層なタイトルをつけましたが、こみいった専門的な内容ではありません。
マーケティング的な視点が気になってこの作品を観て、「根本的に大事なのはコレだよな」と思ったことがあるので、それを中心に書きたいと思います。
「マーケティング」という言葉はザックリ「販売戦略・売れる方法」という意味合いで使ってます。
作品紹介と観たキッカケについて
「グレイトフル・デッドの長く奇妙な旅(原題:LONG STRANGE TRIP)」
Grateful Deadのオフィシャルドキュメンタリー作品で、内容はバンドメンバー・関係者のインタビューやライブ映像など当時の映像で構成されています。
以下のテーマでシーズン1から6まであり、各編は40〜50分、トータルの再生時間は4時間ほど。
(エンドロールがやたら長く7分くらいあるので、クレジットされてる時間より短く感じます)
公開はAmazonプライムのみでの限定配信です。
Amazonプライム・ビデオ
1. 「音楽は生きもの」
結束力を持ちながら、常に変化し続けるバンド、それがグレイトフル・デッドである。2. 「今を楽しめ」
グレイトフル・デッドは、メインストリームでの成功ではなく、自分たちの道を追求する。3. 「バンドに入ろう」
バンドとグレイトフル・デッドのファンの間には明確な境界線はない。4. 「リーダーの重荷」
グレイトフル・デッドにリーダーはいらないし、ルールもいらない、目的すら要らないと考えるジェリー。その結果、波乱のバンドとなる。5. 「デッドヘッズ」
1980年代、デッドのファンはジェリーが言う“今のダサいアメリカ”で冒険を追い求める。6. 「すべてになる」
ファンによる熱狂的な称賛に対し、ジェリーは“十字架にはり付けられるまで 何とか耐える”と言う。
作品を観たキッカケ
バンドのファンかと言うと、特にそういうわけではなく。
「アメリカではビッグネームだけど、日本での知名度はイマイチ」という位の予備知識しかありませんでした。
では、何がキッカケだったかと言うと、「グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ」という書籍。
この本を書店で見かけたことがあって、仕事柄気になってました。
(マーケティングが専門ではなく、Web制作関連)
Grateful Deadは商業的なイメージの強いバンドではありません。
むしろヒッピー文化との親和性が高く、ビジネスとは無縁のイメージ。
でも、実際にコンサートでの集客、レコード・CDの売り上げといった商業面で大成功しているバンドです。
そのイメージのギャップもあり、「どんな秘訣があるんだろう」 と気になって見始めました。
作品を観て思った「マーケティングの秘訣」
まず「ビジネスとは無縁のイメージ」について言うと、これは実際その通りでした。
バンドのメンバーはお金にも社会にも縛られず、純粋に自由と音楽を愛する人ばかり。
バンドの成功後にメンバー全員で田舎暮らしを始めるシーンもあります。
グレイトフル・デッドの活動がマーケティング的に秀逸だと思った点
同時にマーケティング的に参考になる側面も垣間見れました。
例えば、コンサートでの録音を許可していたこと。
普通は、その分「レコードが売れなくなる」などのデメリットに目がいきます。
レコード会社もそういった心配から禁止しようと持ちかけます。
しかし、メンバーは録音の許可を続行。
結果、評判を呼んでチケットが倍以上売れます。
作中、ファンの次のようなコメントがあります。
「ライブ音源を何度も聴き返すことで、ライブごとの音の違いがわかるようになり、よりコアなリスナーになった」
録音はチケットの販売数だけでなく、ファンのロイヤリティー(忠誠心)も高めたことが伺えます。
また、ライブでいうと、「年間80回」というライブの数。
80回って、4日に一回ですからね…。
どのくらいのスパンで続けたのかはわからないけど、ちょっと信じられないペースです。
ライブの数を増やすというのは、「コアなファンを増やす、満足させる」という点で、最も効果的なマーケティング手法だと思いました。
バンドにとってライブ以上に強力なプロモーションはありません。
ライブ自体が次のライブの広告というか。
最良の「広告」をこれだけバンバン打てたことが、売れる大きな要因だったと考えられます。
グレイトフル・デッドの活動の特徴
そういった秀逸な「販売戦略」には、もう一つデッドらしい特徴があると思いました。
それは「戦略的」ではない、つまり、「狙ってない」ということ。
録音に関して、メンバーは許可した理由を「その方が楽だったから」(規制するのは手間がかかったから)と語ってます。
ライブをするのも純粋に「音楽が好き」だから。
作品の序盤では、「プロになる前からメンバーは同居して毎日一緒に演奏してた」と述懐する場面があります。
(後期は、バンドが巨大になりすぎて単純に「好き」で動けないジレンマも描かれてます)
グレイトフル・デッドにみるシンプルなマーケティングの秘訣
この作品を見て一番に感じたのは、「表面的な方法論は無意味」ということ。
マーケティングというと、何か汎用性と再現性が高いテクニカルな方法論という印象もあります。
確かに成功を生んだ方法は見受けられましたが、どれも土台にあるのは「音楽への執念と楽曲・ライブの魅力」。
見て取れるのは、その熱量と実力で30年活動し続けてきたことが、着実にファンを増やし続け、結果売上が伸びたというシンプルな事実でした。
当たり前すぎとも言えますが、正反対の「落とし穴」に落ちているケースを見ることは少なくありません。
テクニック先行で中身をおざなりにしたハリボテみたいな代物もたくさんあります。
例えば、Webで言えば近年主流になっている「コンテンツマーケティング」。
SEOで検索順位をあげる方法論にばかりに力を入れて、肝心のコンテンツはテキトー、という問題は世間的にも話題になってます。
「どうやったら検索順位が上がるか」を熱心に考えてる人が、意味が通じない文章を平然と作っていることはザラにあります。
音楽においても、グレイトフル・デッドを表面的に真似ても成功しないでしょう。
前提として、デッドがCDやテレビよりもライブ演奏で真価を発揮したバンドだったからこそ、録音許可や頻繁なライブ回数が結果につながったと言えます。
何百本ものライブ録音を収集させる原動力も、ライブごとに違うバリエーション豊かな演奏ができたからこそ。
方法論が気になって観ましたが、「方法論の前にまずは中身ありき」と改めて思わされた作品でした。
では「コンテンツさえ良ければ、マーケティングはいらないか」と言うと、それも違いますが。
普通は両方がかみ合わないと成果はでないものだと思います。
さいごに
「グレイトフル・デッドの長く奇妙な旅」の感想でした。
これ以外にも色々考えたこと・感じたことはありますが、この記事では割愛します。
エンタメ作品としてオススメできるかと言うと、ちょっと難しいかもしれません。
(デッドファンは言わずもがな必見ですが)
なにしろ、全6話、計4時間なので、ある程度観る人を選ぶ作品かと。
音楽的にもこれといった代表曲・メロディが浮かばないことからも、一般的に受けやすいかというとそうとも言えないですし。
ただ、観賞後、バンドに対する興味は増して、記事の途中で紹介した「グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ」を早速注文しました。
そもそもこの作品はマーケティング視点のものではないので、本の方で詳しく知れたらと思います。
作品の注意事項について
作品の中心テーマだけど、ここまで触れなかった点を補足。
アマゾンprimeのページには「※本作品には、一部刺激的なシーンが含まれております。」という注意があります。
何がどう刺激的なんだろう?と疑問でしたが、要するにドラ◯グでした。
ドラ◯グはバンドにとっても観客にとっても欠かせない存在で、露骨にハイになってるシーンや肯定的なコメントが多く出てきます。
それ見てタイトルの「LONG STRANGE “TRIP”」の意味や、「Amazonプライム限定配信」の理由も納得でした。
中には感化される人もいるんじゃないかと、心配になるほど結構危うい印象です。
そして、バンドが売れた要因としてもヒッピー文化、ドラ◯グの存在は小さくなかったと思います。
やはりそれを楽しみにライブに来てた人も多いだろうし、メンバー自身キメながら演奏してますしね…。
今、その点の是非を問うのはあまり意味がない気もします。
ただ、いち音楽好きとしては、「音楽がクスリを楽しむための道具」になってる感じがして、なんとなく残念な気持ちは残りました。
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