「監獄ラッパー B.I.G. JOE 獄中から作品を発表し続けた、日本人ラッパー6年間の記録」を読んだ。
手に取った理由は単純に表紙がカッコ良くて、面白そうだったから。

B.I.G JOEは1990年代から活動する札幌HIPHOPシーンの重要人物。
初見のつもりで読んでいたが、ブルハbossとのコラボ曲で聴いたことのあるラッパーだった。

タイトル通り、薬物がらみで逮捕されているが、メディアを賑わせたYOU THE ROCK、UZI、D.Oと違って、全然目にした記憶がないのはテレビに出てたかどうかの違いだろう。

改めて聴いたらソロ作品もすごく良かったし、本も2日かからず一気に読み切れる面白さだった。

「監獄ラッパー B.I.G. JOE」のあらすじと感想

あらすじ・内容

2003年、HIPHOPグループ「マイク・ジャック・プロダクション」で活動していたJOEは地元の先輩からヘロインの「運び屋」の話を持ちかけられ、渡航。しかし、空港の検査で逮捕され、6年の懲役を宣告される。異国での投獄。所内で横行するドラッグ。犯罪再生産工場のような外よりシビアな環境。その中でもジョーはラップし続け、国際電話を使って録音・発表された音源はシーンに大きなインパクトを与えた。
6年間もの獄中生活で何があり、何を思ったか? その全てが赤裸々に綴られている。

↓収監中に最初に作ったという曲、「Lost Dope」。
曲名の由来は「消えちまったドープ(イカしたヤツ)」、「サツに奪われて消えちまったドープ(麻薬)」という意味らしい。

感想・レビュー

読む前にまず思ったのが、「ワル自慢・武勇伝」のようなノリだったらキツいな、ということ。
解説者のあとがきにある通り、「本書の内容はアウトローの美学と切ってもきれない」。

確かにミュージシャンとして、この「経歴」は糧にもなるし売りにもなる。とりわけHIPHOPというジャンルにおいて。
でも、本人からそんなニオイが感じられたら、このご時世、大半の読者にとってはサムいだけだろう。

まずそんな不安を持って読み始めたのだけど、余計な心配だった。

部分的に「運び屋は仕方なく・犠牲になった」云々、自己弁護の節など気になったところはあった。
でも、それ以上に文面から伝わる人間らしい人柄に、最初から最後までどの言葉も素直に吞みこみた。

最近はネットの素人(自分含め)が書いた文章を読むことが多いので、時々こういうサラッとしつつ美しくて力のある文章を読むと、それだけで惚れ惚れしてしまう。

さすが言葉を生業にしてるラッパー、と唸らされた。
もちろん、プロの編集の力も大きいだろうけど。

本の内容自体から逸れた感想になっているが、とにかく映画のようなエピソードと魅力的な人柄にグイグイ引き込まれる一級のエンタメ作品になっている。

無闇にほめるのはためらわれつつ、最高のピカレスク(悪漢小説)を読んだような読後感を味わえた。
HIPHOPへの興味あるなしは関係なく、誰が読んでも刺激的で、読み応えのある作品だと思う。

さいごに。ブルハ、BOSSとの関係とコラボ曲について

The Blue Herbは1stから聴いてて、そこそこファン歴の長いアーティスト。

BIG JOEもブルハも札幌のシーンのキーマンなので、接点がないはずないよなと思ったら、接点どころかBOSSがラップを始めたキッカケがBIG JOEらしい。

今更ながらそんな背景を知れたので、そういう意味でも読んで良かった。

収監中、BIG JOEがBOSSをDisって不穏な仲だったこともあるらしい。
その当時、BOSSが書いた文章↓

「ILL-BOSSTINO(THA BLUE HERB) MONTHLY REPORT 2008.03」

この話はしたかねえけど、言わねえわけにはいかねえ。例のBIG JOEが俺をDISした件について。この話は大半が俺自身、個人的な話でもあるし、俺はこれをエンターテイメントにする気もない。まして俺はゴチャゴチャ後々まで引っ張るような真似は好かない。だから日が経ったらノリで削除する。

勃発以来、ヤツからは何の連絡もない。俺から連絡する事は出来ない状況だ。あれこれ憶測が流れてる中、何もなかったって事にはできねえ。

引用文の続きにはbossもアンサーソングを制作したとある。
「とてつもないものができた」らしいが、発表することなく、すぐにお蔵入りさせたらしい(聴きたい)。

そんな因縁も、BIG JOEが晴れて釈放された後に解消。
いくつかコラボ曲で共演を果たしている。

tha BOSS [THA BLUE HERB] 「WE WERE, WE ARE feat. B.I.G. JOE」

作中、自身のマイク・ジャック・プロダクションのメンバーは何度も登場するが、BOSSの一件は書かれていないので、その点も触れて欲しかったなと思う。

Kindle Unlimitedでも読むことができる(記事投稿時 2019.02)。

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