AIR(エアー)というのは車谷浩司のソロプロジェクト名。
この記事ではAIRにまつわる個人的エピソードやマイベストを選曲しつつ、AIRについて紹介したい。

自分がAIRを知ったのは、Dragon Ashの降谷健二がAIRのファンだと公言していたのがキッカケ(2000年頃)。
なので、特に今のDAファンにAIRを聴いてもらうキッカケにもなればと思う。

ハードかつ抒情的なミクスチャーロックという点で、かなりセンスが近いので、きっとどちらも気にいる人は多いんじゃないだろうか。

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AIRについてと個人的エピソード

前段も長くなったので、「プロフィールとかいいよ」って方は「マイベスト10曲」まで読み飛ばしてください。

AIRの前の活動遍歴

車谷浩司はバンドブームの頃にパンクバンド BAKUでデビュー(1990 – 1992)。
担当はギターだったが車谷のボーカル曲もある。

歌詞も曲もザ・青春パンクという感じで、さすがに良い大人が聴くにはちょっと青すぎる感じかと思う。

その後、石田小吉とエレクトロユニット、Spiral Lifeを結成(1993 – 1996)。
音楽性は(本人達は嫌がりそうだが)「90年代の渋谷系」と言うと伝わりやすい気がする。

すごくポップなんだけど、メインストリームから半歩外れたようなメロディセンスは既にAIRの片鱗を感じさせる。

今書いてて気づいたが、車谷を好きな理由を一言で表すとこの「POPなのに、絶妙にPOPの枠から逸脱してるところ」が一番しっくりくるかもしれない。

BAKU、Spiral lifeはどちらもブレイクまではいかないレベルで、やや短命で活動を終えている。
自分も数枚ずつCDを持っているが、正直ほとんど聴き返していない。

方向性は好きだけど、自分にとって長年聴き続けさせる何かがもう一つ物足りないと言う印象。

AIRでの活動を開始。AIRの魅力や洋楽元ネタ問題について

次に始動させたのがAIR名義でのソロ活動(1996 ー 2009)。
約12年間で計25枚のシングルと10枚のフルアルバムを発表しているので、十分天寿を全うさせた活動だったと思う。

興味深いのは音楽性はヘビィロック、パンク、エレクトロ、ジャズ、ラップと多様化していく中で、根っこのアーティスト性は最初からブレずに、芯が強くなったように感じること。

着る服はバラバラになったけど、濃い血がドクドク流れ始めたというか。

ここで触れとかないといけなさそうなのは、洋楽の元ネタ問題。
DA同様、AIRも「似ている曲」が指摘されることが少なくない。

つまり、それで果たして「芯が強い」と言えるのか?という。

特に初期はニルヴァーナなどの影響がダイレクトに反映されていて、手放しでフォローするのは難しい。

ただその上で、1st EPから確固とした「AIR」らしさがある。と言いたい。
1st EP「LUCY, CAN YOU SEE ORION?」から思い切り「in bloom(ニルヴァーナ)」だけど、同時にAIRの濃度が薄いわけじゃない。

背景色にしては「誰かっぽさ」のカラーが強いけど、全体のメインカラーは紛れもなくAIR。

そこが20年経っても聴き続けられる理由だし、無責任に言ってしまえば、いちリスナーとして何より肝心なポイントだと思う。

(個人的には人の影響丸出しで荒削りな状態も面白いし魅力的だったりする。)

大滝詠一にパンクは歌えないけど、車谷の声質は「夢で逢えたら」も「God Save the Queen」も歌いこなせる。
その辺は純粋に稀有な才能だなと思う。

多様な音楽性と共に柔軟に変化する声質。
というよりも、この声質があったからこそ、幅広い音楽性を破綻せず体現できたのだろう。

AIR後の活動とKjと共通してると感じるところ

AIRの後期は上流で激しく転がった石が丸くなるように、ラウドで多様な音楽性から、「stilly」でシンプルなギターソングへと収れんしていく。

2010年からはLaika Came Back名義で、再びソロ活動を開始。
AIR後期より、より凪いでいて自然体な音楽を鳴らしている。

KjもAIRも初期は、意識的に(時に露骨に)先人の音楽を取り入れつつ、貪欲に音楽性を拡張していった。

両者ともラウドで攻撃的な側面と、stillyで叙情的な側面があって、その振り幅も魅力。
ただ、どちらもより根っこにあると感じるのは後者。

だから、初期のラウドな一面を体現する曲の方が「誰か」のカラーを拝借する傾向にあったように思う。

それでも個性の核があったから、人に響いたし届いた。
そして2人とも17でデビューして、Kjは20年、AIRは30年。

今はもう誰かっぽさを消化、脱皮して、自分達の音楽を作り続けているように思う。

AIRを初めて見たジャケットと初めて聴いたアルバム

Dragon Ashの『Buzz Songs』という2ndフルアルバムの「Melancholy」に「Kids are alrightと唱える人」という歌詞がある。
AIRに「Kids are alright」という曲があって、この歌詞はAIRのこと。

高校の時にインタビューか何かで知ったこのエピソードが、AIRを知ったキッカケだった(まだ「Right Riot」のコラボ前)。

で、そのあと雑誌か何かで初めてAIRのアートワークを見た。
そのCDジャケットは9thシングル「Rush and Rush」。

ビジュアルだけで、かなり鮮烈なインパクトを受けた。
もう、ひと目でわし掴みにされてしまった。

当時はテレビで流れる音楽と違う雰囲気だけで特別な感じがしたし、「今まで聴いたことない音楽だ!」と直感させられるような何かがあった。

ただ、当時はすぐに音源にアクセスするなんてできなかったので、ここからだいぶ時間がかかった。
(未聴のCDを買うお金はないし、レンタルも月一回の「10枚で1000円キャンペーン」の時だけだった)

「早くAIRを聴いてみたい!」と悶々と過ごして、やっとAIRのCDをレンタルした帰り道はずっとドキドキしていたのをよく覚えてる。

20年の音楽リスナー歴で、聴く前からこんなに待ちわびたのも「絶対この音楽好きだ!」と確信させられたのも他にないし、たぶんこれからもないだろうと思う。

AIRのマイベスト10曲

ちょうどフルアルバムが全10枚だったので、1枚につき1曲ずつピックアップして、アルバムを含めた紹介にしている。
(そっちの方が初心者向けにいいかなと、書きながら少し趣旨がズレてしまった)

CD画像とapple musicのツールの画像が違うものは、apple musicでは配信してないアルバム。

あと6曲目以降の方が聴きやすく間口は広い気がする。
1〜5曲目でイマイチそうでも、後半の曲も試しに聴いてみて欲しい。

「DOUBT」( 1st「wear off」 1996)

車谷のグランジ、ニルヴァーナ好きがひしひしと伝わってくる1stフルアルバム。
7曲目の「DOUBT」は、その傾向をよく表してるというか、言ってしまうとイントロが「Breed」な1曲。

ニルヴァーナが好きで「DOUBT」は全然ピンとこないという人はAIRに悪い印象を持つのは仕方ない気がする。

ひずんだギターやパンキッシュなシャウトは初期だけに見られる特徴で、今聴くと名残惜しくも感じる。

ジャケットのデザインは車谷本人で、グラフィックのセンスもすごく好きなところ。
LAIKA CAME BACK名義では服やグッズのデザインをしていて、3着ほど購入して愛用している。
(本当はもっと欲しいけど、発売に気づいた時にはすでに完売してて全然買えない)

「kids are alright」 ( 2nd「MY LIFE AS AIR」 1997)

ハードさ・ポップさ・叙情性・ユーモア・壮大さ。
1stでも散りばめられていたそんなAIRらしい要素が全部スケールアップして、より整然とパッケージされた、AIRの金字塔と言える作品。

後期の方が聴きやすいけど、最初の一枚として貸すなら迷わず「MY LIFE AS AIR」を選ぶ。
(が、残念ながらapple music、spotify共に配信していない…)

このアルバムから1曲を選ぶのはものすごく難しいけど、「Rush And Rush」や「DIVE & DIVE」とセットでプレイされ、ライブで一番のモッシュを生んでいた「kids are alright」を。

「動」の面での代表曲を選ぶとしたら、まずはこの曲になるだろう。

YAWN( 3rd「Usual tone of voice」 1998)

混然としていた2rdまでと比べ、優しく歌い上げる歌モノで統一された3rd。
その分そこまで抜きん出た曲はなく、これはこれで選曲に迷った。

でも、やはり選ぶとしたら「YAWN」。

サビの歌詞、
「もしも僕がやがてあくびのふりして涙をうかべたら 見逃してください」
は全曲含めた中でも特に耳に残りやすいフレーズだと思う。

当時、雑誌でミュージシャンの洋楽邦楽のお気に入りを5枚ずつ紹介する特集があって、AIRは邦楽欄で自身の「Usual tone of voice」のみをピックアップ。
「邦楽は全く聴かないからコレしか挙げられない」とコメントをしていた。

確かにAIRに邦楽アーティストの影響を感じたことはない。

「REAL SAY JUICE」(4th「FREEDOM/99」 1999)

4thでは新たにラップを取り入れたり、エレクトロなサウンドを前面に用いて、再び混沌とした様相に。

この時期から曲名に日本語を使うようになったり、「NO MORE DOLLY」と動物実験反対のメッセージを発信するようになったのも一つの変化だった。

きっと人によってはジャンルの変化や社会的メッセージを「浅いファッション」と見なすだろう。
でも結局のところ、曲が刺さったか刺さらなかったで、好意的に受け取れるかどうかが決まるんじゃないだろうか。

(ドレッドヘアしてジャケ写に星入れて、ラップで「against animal testing」って歌えば、確かに「レイジ気取りか」となるのも無理はない。改めて考えるとさすがにプロとしてちょっとやり過ぎかも)

「REAL SAY JUICE」は、初めて聴いたAIRの曲。
TVで流れるポップミュージックにはない、ヒリヒリしていて得体の知れない雰囲気にドキドキしながら聴いていた。

ジャケットのモチーフはレイジのザック・デ・ラ・ロチャみたいなドレッドヘアの車谷。
自分が知ってるジャケットのギターはレインボー柄だが、迷彩柄もあるようだ。

「Me,We」 ( 5th「Flying colors」 2001)

2000年前後は、Dragon AshやRIZE、山嵐、スモーガスといった、ラップ×ロックサウンドを織り交ぜたミクスチャーバンドが一シーンとして認知されてきた頃。

AIRがシーンの源流として見なされているかは分からないが、「Flying colors」は日本のミクスチャーロックの一つの到達点だと思う。

普通の歌詞は歌い手の存在が透けて見えてくるもので、小説と小説家の関係に近い。
対して、ラップのリリックは歌い手の存在がより前面に出てくる。

「Me,We」の力強い宣言のような歌詞は、そんなラップの効果を最も発揮している。
「彼の思いいまだ色褪せずに 今日(こんにち)さらに意味を増してる」「これで散るなら望むところだ」とかすごくカッコいい。

DAのKjやRIZEのJESSEもAIRへのリスペクトを公言し、本作ではKjは「Right Riot」で、JESSEはギターで共演している。

また、その少し前にイラストレーターの326(ミツル)作詞で「 New song」をリリース。
これも326がファンだったことがキッカケらしい。

リリース後、326と一緒にテレビ(「うたばん」)に出演してるのを初めて見たが、当時のバラエティ色の強い音楽番組にはやはりあまり向いてない感じだった。

「Last dance」(6th「My Way」 2002)

6th以降は、良い意味で力が抜けて方向性が安定したように思う。
メロディや歌声がより前面に出て、演奏は控え目なアコースティックなど一歩引いたような曲が増える。

「My Way」はジャケットの雰囲気通り、全体的に哀愁が漂う、季節で言えば秋に聴きたい一枚。
「Last dance」はAIRファン以外にも最もうけそうな曲だと思う。

車谷が蛍光ピンクの長袖シャツを着たMVも秀逸だった。

「starlet」 (7th「One」 2003)

「My Way」で掴んだ方向性のまま、もう一歩踏み出したような作品。
繊細な高いキー、声の揺らぎが印象的で、車谷の沁みるような歌声が味わえる。

秋めいている「My Way」と比べると、「one」は爽やかなイメージの曲が多い。

自分の中で、ラウドな曲では「ME,WE」「Right Riot」を姉妹曲のように思っている。
メロディアスな曲でいうと、「Last dance」と「starlet」がセットで聴きたくなる。

グイグイくるわけじゃないのに、じわじわと気分が上がっていき、ずっと聴いていたいような名曲だ。

Sleep Well ( 8th「A Day in the Life」 2005)

「A Day〜」とようにあるように「1日」をコンセプトにしたアルバム。

どういうことかというと、1曲目が「Greeting From K.」。
2曲目以降も「海へ行く」「Sunset」「Full Moon」といったタイトルが並び、朝から夜へ、1日のパートをモチーフにした歌で構成されている。

そして、「Sleep Well」はタイトル通りラストの曲。

この曲は分かりやすい名曲ではないけど、一時期取りつかれたように毎日延々とリピートして聴いていた。
「Last dance」や「starlet」とはまた別の中毒成分を含んでいる1曲だと思う。

ちなみに1曲前の「Hallelujah(ハレルヤ)」は分かりやすい名曲。
AIRこんな曲作れるんだ!と衝撃を受けて10余年。結構最近カバーだと知ってまた違う衝撃を受けた。

「Our Song」 (9th「The New Day Rising」 2007)

このアルバムも全体の印象は前2作と大きく変わらない。
同じアーティストなんだから当たり前といえば当たり前なんだけど。

ある意味「AIRはこのテイストで落ち着いたんだな」と感じたアルバムだった。

「Our Song」は「Last dance」「starlet」と同じく流れるようなメロディが心地いい1曲。

その次のラスト「God Only Knows」は「これも歌詞的にオリジナルじゃないのでは」と思って確認したら、やはりビーチ・ボーイズのカバーだった。

Nayuta (10th「Nayuta」 2008)

AIRのラストアルバム。
「Nayuta(ナユタ)」は「とてつもなく大きな数」や「永遠」を意味するようだ。

表題曲「Nayuta」は柔らかいアコースティックの音色と、厳かで深遠な歌詞が、車谷の美声を際立たせている。

そんな表題曲始め、集大成を感じさせる完成度とAIRらしさが詰まったアルバムになっている。

先行シングルのロックチューン「Surfriders」「Have Fun」だけテイスト的に浮いてるという指摘もあり、それはその通りかと。
この2曲は外して、翌年リリースしたラストシングル「Pansy」が入ってたらベターだった気がする。

AIRはラストの曲がすごく重要な役割を担っていて、大団円を思わせる壮大な曲が多い。
「Nayuta」のラスト「Microcosm」も活動の締めに相応しいスケール感の一曲になっている。

「Microcosm」はギターやウィスパーボイスが、spiral lifeの最後の曲「nero」と似ているので、このアルバムは最初から活動終了を意識して作られたのかもしれない。

さいごに

車谷はAIR活動後にLaika Came Backとして再始動。
ライカ〜の名前の由来は「最愛の人を失ったこと」で、そのことについてはまた別記事で書いている。

【LAIKA CAME BACKの意味とは】今までで一番感動した音楽文

この「失った」時期というのは不明だが、Nayutaの各曲を見るともう既に「その後」なのかなと想像する。
「Microcosm」の歌詞に「旅立った 君が今 広がった。いつどこにいてもひとつになる。大泣き止んだ 成れの果て Today Here I am」とある。

君は亡くなってこの世界を去ったけど、この世界は「Microcosm(小宇宙)」で、いつかまた大きな宇宙のどこかで必ず会える。

そんな風に歌ってるように聞こえる。

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