【これから絵を始める人に】『絵はすぐに上手くならない ーデザイン・トレーニングの思考法ー』成富ミヲリ

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前回の記事同様(『『イラストレーションファイル2016 上・下』を購入しました。』)、絵を練習するにあたって購入した本です。
【本のテーマ・対象の読者】【本の内容】と【印象に残った箇所の感想】を紹介したいと思います。

本のテーマと対象の読者

本のテーマを『まえがき』から引用。

絵がうまくなるまでの行程において全体像が見えていないということこそが問題なのです。目の前の道は見えているけれども、自分の登っている山の高さが分からないようなものです。それでは、自分がどこを歩いているのか分からなくて途方にくれてしまいますね。

この本は技術書ではなく、トレーニング法の本です。どうやってトレーニングに取り入れるのか 〜 に力点を置いて書かれています。
この本があなたと共に歩いていく地図になることを祈っています。

著者の成富ミヲリさんは美大生時代から絵を仕事にしており、10年以上デッサン教室の講師もしているそうです。

この本はそこで得たノウハウをまとめたもので、テーマは【絵をこれから学び始める人の道標となること】と言えると思います。

絵が上手くなりたい動機や今の能力・特性から、どんなトレーニングが適しているかを指南してくれる、
まさに今の自分に合った内容だと思い購入しました。

デッサン教室の学生は社会人ですでに制作に携わる人(プロのクリエイター)が多いようで、読者の対象も主にそういう方と思われます。
その点でもwebデザインをやっている自分には合っているようでした。

(ただ社会人でも制作のプロでもなくても全然問題はない。)

本の内容

目次は以下の通り。

【目次】

まえがき
 ・絵はすぐにうまくなるか
 ・この本について

第1章 絵を描く能力とは
 ・あなたにとって絵は目的か手段か
 ・「絵がうまい」ということ
 ・絵が描けないのは身体のどこに問題があるのか
 ・受験デッサンと仕事に生かす絵は違う
 ・デッサンをしなくても絵はうまくなるか

第2章 描画能力を分解する
 ・絵の上達への道
 ・トレーニングおおよその流れ
 ・縦軸と横軸で考える
 ・個々の能力を理解する
 ・習得可能なハつの能力
 ・ジャンル別 必要な能力をチェックする
 ・選びきれない方へ
 ・長所を伸ばすか短所を克服するか
 ・自己テストで長所と短所を知る
 ・自己判断テスト1 自分の絵を診断する
 ・色々な人のクロッキーを見てみよう
 ・自己判断テスト2 「能力別自己診断シート」
 ・自分のレーダーチャートを書いてみよう

第3章 トレーニング方法
 ・トレーニング方法の選び方
 ・能力別トレーニング早見表
 ・弱点別トレーニング早見表
 ・総合デッサン
   構図を取る
   形を取る
   立体感を出す
   質感・陰影を描く
   テクニックを駆使する
 ・クロッキー(スケッチ)
 ・模写
   写真の模写
   クロッキーの模写
   作品の模写
 ・写真
 ・スクラップブッキング
 ・立体彫望
 ・トレーニング方法に関する質問集
   Q 短時間クロッキーは役に立つの?
   Q 人物デッサンの2大指南書はどう使う?
   Q トレースはやってもいいの?
   Q 円や線をひたすら描く基礎練習はするべき?
   Q デッサン人形は役に立つ?
   Q 教本の使い方を知りたい
   Q 絵は右脳で描いているの?
 ・色のセンスを磨く
   色の定義と考え方
   混色の技術と知識
   色彩感覚を養う
 ・感覚・感性を磨く
   自分のセンスを信じるには
   自信がないことが最大の敵
   感覚の磨き方

第4章 事例集

あとがき

各章の大まかな内容です。

1章ではまず絵を描くという行為の根本的な部分を確認。
【絵が上手いとはどういうことか】【上手く描ける状態(描けない状態)とはどんな状態か】といったことの説明があります。

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2章もトレーニング法を考えるための準備で、次の3点を確認します。

1つ目は絵を描くのに必要な能力を8つに分類

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2つ目は目指す職業によって、どの能力が必要か分類
最初に職業を11に分類しています。

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上記のジャンル別の人物像の特徴を挙げているイラストもあります。

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『確かにそんなイメージあるなー』と読んでいて面白かったです。
デザイン系の『ひそかなポリシーがある』の『ひそかな』とか、ファインアート系の『自分が大好きで大嫌い』とか的を射ているし言い得て妙。

最後は今の自分の能力・傾向を知るための2つの自己診断テスト

1つ目は自分の手を実際にクロッキーをするもの。
(サンプルも後半載ってますが、立ち読みなどで確認する際もサンプルは見ない方がより正確に診断できます。少しでも見てしまうとその印象に引っ張られるので)

2つ目はアンケートのような自己診断シート。

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3章ではいよいよ『総合デッサン』などの6つのトレーニング方法について

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トレーニング方法の他にその方法の【目的と効果】【必要な道具】【方法】や【コツ】がわかります。
技法書ではないので具体的な技術(パースの取り方など)の解説はありません。

4章では絵の練習で悩む架空の人物を6人設定し、その人物に合ったトレーニング方法の解説がされています。

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架空の人物ですが、『完全な創作ではなく、〜受講生のよくある悩みを組み合わせた形』だそうです。
確かに近いなと思う部分が何人かの人物にありました。

印象に残った箇所の感想

いくつか印象に残った箇所を挙げて感想を。

『個性とは自分でコントロールできない、自然と滲み出るもの』
『本来でのデッサンや基礎訓練は自分の個性を掘り出すことも含んでいます』
(P22)

デッサンは無機質に写実性を高めるだけのものではないと個性の重要性を説いています。

ここ数年、webデザインの分野ではよく『デザインは個性・センスじゃない。ロジックだ』という主張を目にします。

同じ初心者向けの参考書でも個性の存在を重視するどころか、無視したものばかり。
なので、この言葉は新鮮に感じました。

そして、デザインする上でも自分の個性・センスに目を向ける事は大切です。
(自分の好みでデザインする、ということではなく)

そもそも(ディベートなどの便宜的な方法論として以外の)極端な二項対立はそうする『下心』が何かあるもの。
特に商業的な視点で言うと、その方が有効なんでしょう。

デザインにしろ絵にしろ、初心者は誰でも『すぐに上手くなりたい』『自分の個性はわからない。センスに自信がない』と思っています。

だから『2週間でマスター!』『センスや個性は関係ありません!』という謳い文句がウケるし流行る。

そんな中『絵はすぐに上手くならない』、『自分のセンスは変えられない』と(ポジティブに)ハッキリ言う著者は誠実で信頼できると感じました。

また、多義的で曖昧な『センス』という言葉についても、この著書内での意味をしっかり定義した上で『変えられる部分/変えられない部分』があると言っています。

上記のように『デザインはセンスじゃない。』と言い切っているものは、だいたい『センスとは何か』を説明していません。

中には『センスというのは曖昧で様々な意味があります。』という前置きの後、『デザインはセンスじゃなく、ロジックです』という論理性の欠片もない文章もあったり。。

ちょっと脱線しましたが、『デッサンも個性が重要』ということと、著者の誠実さが伝わるという点で印象的でした。

『美大受験は見たものを描く。でも仕事では見ないで描く』(p26)

これは著者が美大生時代、CMの絵コンテの仕事をした際に気づいたことらしいです。
自分も絵は見て描くものだと思っていたので、仕事では『形を覚えて描かなければいけない』というのは発見でした。

『作品制作はすぐに始めてください。勉強が終わってから作品を作ろうと思うと一生作品制作に入れません。』(p34)

これも心に留めておいて、絶対取り入れなければと思ったことです。
webを勉強し始めた頃、一番できていなく、やっておけばよかったと思っているポイントでもあります。

『平面タイプか立体タイプかだけはほとんど変化することなくずっと同じ』(p64)

イラストには大きく分けて立体的なものと平面的なものがあります。
自分はおそらく前者だろう、そして平面的な方向で伸ばそうと思っても難しいだろう、と漠然と感じてました。

なので『ああ、やはりそうなんだ』と。
立体的な傾向の人は『デフォルメが苦手』という指摘もあり、それも当てはまってる気がしますね。

さいごに

『まえがき』にあるように、絵を練習することの全体像と漠然とした方向性が見渡せた気がします。

『デッサンとクロッキーの違い』や『参考書の選び方使い方』など初心者がよく疑問に思うことに対しての回答もあり、ありがたかったです。

まだしばらくは独学で練習しますが、今後デッサン教室に通うこともこの本キッカケで検討し始めました。
(最初から通わないのは、ある程度自分の中で苦手な事・わからない事を把握してからの方が有意義だと思うので)

絵を本格的に描き始めたい、でも何をしたらいいかわからない。
『絵はすぐに上手くならない』はそんな悩みを持った人の背中を押して、一歩目を踏み出す手助けをしてくれる一冊だと思います。